執務室に聞こえるのは、カリカリと羽ペンを走らせる音ばかり。 呼吸すら憚られるような静けさに、しかしこの場にいる2人は一切気にも止めずに己の作業に勤しんでいた。 毎日山のように、比喩ではなく本当に山のように運ばれてくる書類を捌かねばならないのだ。無駄に使える時間など皆無に等しい。 聖域だけの問題ならまだしも、三界で和平を結んでからは海界や冥界関連の書類も増えてきた。彼らの性格から考えても、他の界に迷惑がかかるような真似は万が一にも出来ないのだ。 プライドと云うべきか、意地と云うべきか。 良くも悪くもそれがこの2人の性分であり、だからこそ沢山の人に慕われるのだが。 カリカリ、カリカリ。 夜の帳などとっくに降りきり、もはや教皇宮で起きているのはこの2人だけとなった今も、2人の手は休むことを知らない。 一枚書類を仕上げれば、空いている手で次の書類を引き寄せる。たまにすでに冷え切った紅茶を口にする以外はずっと書類と睨めっこの状態を、数時間続けていた。 半ばワーカーホリック気味の2人なので、半日くらいこんな時間を過ごしても苦ではないのだが、周りはそうはいかない。うっかりすると食事も摂らずに仕事に明け暮れることもあるため、いつか仕事中にばったりいくのではないかと気が気でないのだ。 なまじ立場のある2人だからこそ安易に『休め』とは云えないので、執務に勤しむ2人はらはらと見守るしか出来ないのがもどかしい。代わってやれるものならば代わってやりたいところだが、残念なことにそれは無理な話で、仕方がないのでこまめに様子を見て、隙あらば休憩するよう声をかけるのが周囲に出来る精一杯だった。 カリカリ、カリカリ。 カリカリ。 それは唐突だった。 「誕生日、おめでとう」 カリカリ、カリカリ。 カリカリ。 相変わらず羽ペンは動き続けている。乱れなく、恙なく、滞りなく。 時折数枚の書類をペラペラとめくる音が混じったりするものの、作業は止まることなく進んでいく。 しばらくそのまま何事もなく時間は過ぎ、2人がほぼ同時に一枚の書類を仕上げたとき。 「ありがとう」 本当に嬉しそうな、声で。 そこで漸く2人とも顔を上げ、目を合わせると思わず笑った。思えば昼頃から執務室に籠もり始めたというのに、まともに顔を見たのは今が初めてだった。12時間近く隣で作業をしていたというのに、呆れたものである。 「何だかね」 「久し振りにを見た気がするな」 「私も。ずっとこの距離にいたのにね」 「おかしな気分だ」 「ふふ。ね、机の上片づけたら、ご飯作ろうか」 「・・・私が料理が出来ないのを知って云っているのか・・・?」 「うわぁ卑屈。違うよ馬鹿」 「ば・・・」 「私が作るんだってば。今日くらい、いつもより気合い入れて作ってあげる」 「・・・そうか」 「うん。何がいい?」 「そうだな。の料理は何でも旨いから、何でも構わない」 「まるで日本人のような回答ありがとう。じゃあ納豆巻きでも食べてろ」 「!?」 「冗談だよ・・・何その情けない顔」 「納豆だけはどうにも好きになれんのだ・・・あのにおいとネバネバは食用とは思えない」 「そこかよ。納豆屋さんに謝れ」 「申し訳ない」 「素直だな!どういう反応していいかわかんないんですが」 「ところで、久々にあの肉じゃがと云うのが食べたいんだが」 「あんたわざとやってんの?」 「何がだ」 「いや、やっぱりいいわ・・・ん、肉じゃがね」 「頼む」 「よし、じゃあさっさと終わらせようか」 「そうだな」 そうして12時間振りの会話は一旦終了し、また執務室には羽ペンの音だけが響く。 変わらない、静寂。 けれど先程までとは少し違うのは、2人とも、心なしか嬉しそうな笑顔を浮かべているところ。 時刻は午前零時少し過ぎ。 今日は、5月30日。 |
午前12時の楽園
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お誕生日、おめでとうございます。
-------------------- サガ、誕生日おめでとう! 余裕があれば黒サガ祝いも書きたかったけど、時間がありませんでした。残念! サガは本当に泣き虫で弱虫で強情っぱりで、卑屈で鬱な奴だと思います。なのにこんなに好きなんだ・・・なんでだろう。こうして書いてみるとがっかりするほど残念なオーラが出てるのに、それでもサガはイイ男だと思うのです。なんでだろう。不思議だけど、好きです。 サガが過去にやってしまったことは取り消せないし、それによって世界に無用な血が流れて混乱したということは事実だし、それが正しいことだったとはどう考えても思えないです。 けど、それでも。 サガはサガなりに、歪んでしまった愛情の中で世界を護ろうとしたんじゃないかなって思います。 妄想です。 わかってる。 夢見がちすぎるのはわかってる・・・! それでもそう思いたいのです。 単なる悪だったとは、思えないのです。 サガ大好き! この人のこととか、この人に関係することを考えてるだけで切なくなって涙が出てきます。特に幼少期妄想ははげるくらいテンションが上がっては下がります。考えてるうちに鬱になりそうだぜ! ロスもいてカノンもまだいた昔は、サガは幸せだったんだろうなぁとか。 うえ・・・(´;ω;`) 泣きそう← というわけで、サガ、本当にお誕生日おめでとうございました!愛してる! 20100530 |