いたい、痛い、居たい。






涙と背中の温もり





ふと気付くと切なくなる。
何が、というわけではなく、無性に泣きたくなるのだ。
厄介なことだった。
例えばデスマスクとじゃれているとき、例えばシュラと話しているとき、例えばアフロディーテと庭の手入れをしているとき。
じわり、と目頭が熱くなって、目元に水分が集まる感覚に焦る。
慌てて首を振ってみたり、ゴシゴシと目を擦ってみたりすれば不審そうに見られるし、踏んだり蹴ったりだ。
わからない。
泣きたいわけじゃないのに、泣きたくなる。
泣くのはもうやめたのに、涙はなくならない。
そんなときは、仕方がないのでサガに背中から思いっきり抱き付いてやりすごすことにしていた。勿論、いつも出来るわけではないけれど。

「どうした?」

不思議そうに首だけ振り向いて問うサガに、くぐもった声で何でもないと返せば、暫くの沈黙のあと、そうか、と一言だけ返ってきた。
何でもないわけがないのは一目瞭然だ。
それなのに何でもないと答えたことに、もしかしたら怒ってしまっただろうか。
それはよくない。全然よくない。
ただでさえ意味もなく泣きそうなのに、これ以上泣きたくなるのは非常にまずい。
何か云わなければ、と、回らない頭で考えていると。
ぽん、と。
頭に手が乗った。
見なくてもわかる。サガの手だ。

「じゃあ、暫くそうしているといい」

優しい声。
ああ、また泣きたくなってしまった。
抗議をしたかったけれど、今喋ったら涙声になっていそうだったので、小さく頷くことで返事をした。










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でも、泣かない。