俺は聖闘士だから、この命は闘いの中で使いきると決めていた。 アテナの為に、使うのだ。 お前の為には、使えない。使ってはいけない。 けれど一つだけ、約束しよう。 お前を護ることの出来ない俺だけれど、一つだけ、誓おう。 |
誓約
|
心臓に致命的な病を持っているのだと、カルディアは告げた。は黙ってそれを聞き、静かに涙を流した。 泣かせたいわけではなかったのだ。けれど、告げておきたかった。聞けば、優しく彼女は泣くだろうけれど、それでもこの事実だけは。 告げずに死ぬのは、卑怯だと思ったから。 嗚咽を漏らすことなくは泣く。透明の雫を、滑らかな肌に滑らせ、泣く。 綺麗だと思う。カルディアは男にしては華奢な、しかし強い指での涙を拭ったが、次々と流れるそれはすぐに彼女の頬を濡らした。 面倒になって、頬を一舐めし、抱き締める。涙は少し、塩辛かった。 そこで漸くは声を上げて泣き出した。今まで極限まで我慢していたのであろう嗚咽は、酷く震えていた。 カルディアの胸元で。は泣いた。 違うのに。 泣かせたくなんてなかったのに。 出来ることなら、可能であれば、もしも願いが叶うならば。護りたかったのは、の笑顔だったのに。 彼女を泣かせる原因になるだなんて、いっそ滑稽だ。 を抱き締める腕に力を込めながら、カルディアは心の中で謝罪する。すまない、と。護ってやることが出来ず、すまない、と。 聖闘士であるカルディアは、アテナを護ることを史上命題しなければならないのだ。 アテナの為に命を張り、そして散る。 それが、運命。 それが、聖闘士としての、使命。 けれど。 カルディアは、愛した女を抱き締め、云う。 「」 慰めにもならないかもしれない。 「」 狡いやつだと軽蔑されるかもしれない。 「俺は聖闘士だ。アテナの剣となり闘い、盾として散るのが運命だ」 自身はきっとアテナの為に死ぬだろう。 「でもな」 しかし、この身が果てようと、命が尽きようと、これだけは誓おう。 「―――最期の瞬間は、お前だけを想おう」 それが俺に出来る、ただひとつの、唯一絶対のことだから。 彼女のために命を使ってやれないカルディアの、これは贖罪だった。 (愛していると告げられなかった俺を愛してくれたお前への、最大限の愛の形) ------------------------ カルディアの生き様はかっこよすぎる |