むせかえるほど強烈な薔薇の香り。 視界を赤く染めるのは、薔薇の深紅。 「――――――」 脳裏に蘇る、あの日の記憶。 忘れられない。 忘れてはいけない。 忘れるわけがない。 「―――・・・」 絶対に忘れない、あの日の記憶。 「やぁ、お邪魔するよ」 薔薇に釘付けになっていた視線を少し上げる。 そこにいたのは。 「魚座ピスケスのアフロディーテだよ。よろしく、」 真っ赤な薔薇を差し出し、透けるようなプラチナブロンドをふわりと靡かせ、優雅にに微笑んだ彼を見て。 「・・・・・・・・・ッッ!!」 は。 「―――いやぁぁぁぁッ!!!」 思い切り、薔薇を、振り払った。 薔薇が散った。 棘で傷付けたのであろう傷口から血が流れる。 赤い花弁と、朱い血が、舞う。 |
vanitas
忘れえぬ記憶 |
「・・・・・・な・・・」 一瞬の静寂。 赤の花弁がひらりと舞う。 震える手、か細い息、整った顔に浮かぶのは恐れにも似た表情。 「何してんだよてめぇは!?」 咄嗟に動いたのはデスマスクだった。 棘つきの薔薇を素手で振り払ったために、己の血で赤く染まったの手を取り高い位置に持っていく。止血をしなければならないが、包帯やガーゼなどあるはずもないので適当にその辺にあった布を傷口に押し当てた。 イライラした。 一体何をしているのか、この女は。 デスマスクは興味のないものに対しては恐ろしいほど淡白で、傷付こうが怪我しようが何しようが知ったことではないと思っている。究極、死んだところでデスマスクには何の問題もない。 けれど少しでも興味があれば別だ。 彼は、その対象が傷付くのが許せない。 理由は自分自身もわかっていないが、嫌なものは嫌なのだと結論付けることにした。 そして目の前の少女だ。 折角少し気に入ったと思ったのに、この行動。 馬鹿か。 イライラ、する。 「薔薇にゃ棘があんだぞ!!知らねーのかよ!?」 「し、知って・・・・・・」 思わず怒鳴りつけると、は目を泳がせながら答えた。知っているなら尚のこと大馬鹿者だ。 それ以前に、薔薇に棘があることを知らない人などいるわけもないと思うのだが。 「・・・・・・薔薇は嫌いだったかな?」 軽く首を傾げながら散った花を見ていたアフロディーテは云った。 振り払わずにはいられないほど薔薇が嫌いだったのかもしれない。そう思うとなんだか申し訳ないような気持ちになったが、同時に薔薇が嫌いとは珍しい、とも思った。 しかし、デスマスクに包帯代わりの布を手に巻きつけられ一応の手当てをされたは、そんなアフロディーテの言葉に驚いたように顔を上げた。 「ち―――・・・」 首を振る。 「違う!嫌いじゃない!!」 必死に、否定した。 あまりにも必死だから、少しばかりアフロディーテは身を引いてしまった。 「ちが、違うの、ごめんなさい」 声が震えていた。 違うのだと、嫌いなわけではないのだと小さく呟いたの声はあまりにか細く弱々しく、けれど相変わらず床に散らばる赤い花は見ようとしなかった。 嫌でもわかる。 彼らは勘がいいし、そしてその勘が外れることはあまりない。 は混乱しているようだし、今それを確かめることは出来ないだろう。 では、選択肢は少ない。 チラリと素早くデスマスクとアフロディーテは目配せした。頷く。 「今度来るときは、違う花を持ってこようか」 「・・・・・・怒ってないの?」 恐る恐る恐々と、上目遣い気味にアフロディーテの表情を窺うに、彼は柔らかく微笑んで答えた。なるべくこの怯えを取り除けるように、優しい笑みを浮かべる。 「怒ってないよ」 「・・・・・・ごめんなさい」 折角持ってきてくれたのに、と本当に申し訳なさそうに云うの頭を、アフロディーテは優しく撫でた。 何気なく。 特に何かを考えたわけではなく、そこに頭があったから、というくらい何気ない行動だった。 しかし、そんなアフロディーテの行動に、は思わず顔を上げだ。 驚いたように、その瞳にアフロディーテを映す。 「大丈夫だから」 まじまじとその笑顔を見、は泣き出しそうに顔を歪めた。 それは、薔薇を台無しにしてしまったことに対してというよりも――アフロディーテの笑顔を見て泣きそうになったような、そんな表情だった。 「おぉっ?」 少しばかり、この状況には不似合いな声が上がる。 3人が声の宝庫に視線をやると、散らばった薔薇をきょろきょろと見ながら、なるべく踏まないようにして部屋に入ってきたのはシュラだった。先にデスマスクが云っていた通りだったが、時間差があったらしい。 電波の力ってすごいな、などとぼんやりが思っていると、普段は鋭い視線を幾分丸くしてシュラは首を傾げた。 「何かあったのか?」 「別に?」 「ふふ」 「あぅ」 「?」 デスマスクはしれっと云い、アフロディーテは静かに微笑み、だけは気まずそうに目を泳がせた。 意味がわからずシュラは頭の上にでっかい疑問符を浮かべていたが、説明されないということは説明するまでもないことなのだろうと見当をつけた。 「で、お前は何しに来たんだ?」 「食事を持ってきた」 今まで気付かなかったが、シュラはバスケットを持っていたようで、デスマスクの疑問にそれを見せることで答えた。 「こちらへ来てから何も口にしていないだろう?」 「・・・・・・・・・」 ジッと。 はシュラを見つめていた。 お世辞にも遠慮しているとは思えないほどまじまじと。 遠まわしに云っても人相が良いとは云えないシュラである、これまで畏怖の視線を送られることは多々あったが、これはどうも違うようである。 間違っても、怖がっているわけではない。 どこか信じられないような、そう、驚いているのだ。はシュラの顔を見て、驚いている。何故かはわからないが。 「・・・・・・俺の顔に何かついているか?」 苦笑して問うてみると、はハッとしたように肩を震わせ慌てて手を振った。 「あ、ごめんなさい。ええと・・・」 何を云えばいいのか困っているようだった。 何か云いたいのに、どう云えばいいのかわからないようにも取れる慌て方だった。 しばらくの間そうやって頭を悩ませているを眺めていた年中組3人だったが、やがて面倒になったのかデスマスクがさっさとバスケットを開いて中の料理を取り出し始めた。 薄切りのバゲットとグリークサラダ、ホウレン草のキッシュとチキンのトマト煮込み。ポットに入っているのは冷たいジャガイモのポタージュスープ、いわゆるヴィシソワーズだった。 「おら、食っとけよ。俺には劣るが、こいつのメシも旨いぜ」 いつの間にか、のための食卓が出来上がっていた。信じがたいごとに、一般庶民には手の届くはずのない高価なアンティークテーブルの上に。少し顔が引きつった気がする。零したりしたらどうなるのかは考えたくもない。 立ち尽くしたまま動かないにしびれを切らしたのか、デスマスクはの襟首をひっつかんで無理矢理テーブルに座らせた。苦しいという抗議は驚くほどあっさりスルーされた。 恨みがましい目で加害者を睨みつけても相手にされず腹が立ったが、改めて目の前に並ぶ料理を見ると自分が空腹であることを思い出した。現金なものである。 「・・・いただきます」 「余りものだ」 気にするな、と云うシュラに改めてお礼を云い、きちんと手を合わせてから料理を口に運ぶ。その日本独特の動作に3人は首を傾げていたが、ひとまずは何も云わなかった。 「・・・おいしい!」 まずはスープに手を付け、ジャガイモの濾しても少し残るざらついた喉越しに頬が緩む。しょっぱさも丁度良く、余計に他の料理がおいしそうに見えてきた。 チキンのトマト煮はしっかり長時間手間を掛けて煮込んだのがわかるほど柔らかく、トマトの味がよく染み込んでいてその酸味がまた癖になる。ホウレン草のキッシュは焦げたチーズと中のクリーム、アクセントに入れられたナッツが程良く調和し、いくらでも食べられそうだ。 「だろ」 「なんでお前が自慢げなんだ」 「普段から旨いメシ食ってるから、旨いメシが作れるんだよ」 ご機嫌になって料理をたいらげていくを見、得意げに胸を反らすデスマスク――意外と子供っぽいところがあるものだ、とは密かに思った――に、わざと大袈裟に驚いたように首を傾げたのはアフロディーテだった。 「それは誰の料理の話かな?」 「俺に決まってんだろ!」 「まぁ、お前の料理の腕は認めるが・・・なぁ」 「ねぇ?」 「二度と作ってやんねーぞ」 「それは困る」 2人の声が重なった。 デスマスクは半眼になって、声を重ねた2人を睨みつけるが意味はない。彼自身もわかっているので、大きなため息を天井に向かって吐き出しはいはい俺はコックさんですよーと嘆いてみせていた。 3人がじゃれているうちに料理を食べ終わったは、ごちそうさまでした、とまた両手を合わせてからテーブルの上を片付け始めた。こんな高価なテーブルの上にいつまでも食べ終わった食器を置いておくなど、恐れ多すぎる。 食器をシュラの持ってきたバスケットの中にしまい、ちらりと改めて辺りを見まわすと、ベッドサイドのチェスト上に水差しを発見した。本当はお茶を淹れたいところだが、来たばかりの部屋では勝手がわからないし道具があるかもわからない。その辺りは追々デスマスク辺りに訊くとして、とりあえず今は水でいいだろう――そして手にしようとした水差しが、それすらひとつの高価な調度品のようでまた泣きたくなった。 気を取り直してコップを用意し、水を注いだは自分も水に口を付けながら首を傾げた。 「3人は仲良いの?」 今更な気がするが。 すると3人は、一度顔を見合わせ、大いに首を傾げたのである。 「・・・・・・・・・さぁ」 「さぁって」 「歳が近いからな、必然一緒になることは多いだろう」 「へー。ちなみに?」 「22」 とデスマスク。 「22だ」 とシュラ。 「21だよ」 とアフロディーテ。 「私は17だから、5つと4つ違いかぁ」 「5つか。アウトだな」 「何がよ」 「いろいろと」 「あんたの頭にはそーゆーことしかないわけ・・・?」 呆れて云うと、ニコッと笑った――そう、笑ったのだ!――デスマスクの手が、両手がに伸びる。 人相は悪いが、デスマスクの顔は醜くない。皮肉っぽい表情にさえ気を使えば女性が放っておかないほど整っている。 そんなデスマスクの笑顔に一瞬気を取られたのが、の運の尽きだった。 伸びた手は、丁度の頬を包むかのように思えたのだが――違った。デスマスクの手はの頬に触れるかと思った瞬間、ぐっと握り拳を作ると、それをのこめかみにあてがった。 「口に気をつけろよ、お嬢さん」 「ひぃあだだだだだだだだごめんなさいいいいいい!!!!!」 ぐりぐりぐりぐり。 こめかみは人間の急所であることを知っているのだろうか。いや知らないわけがないのだが。 そんな2人の仲睦まじい――?――様子を見ていたアフロディーテとシュラだったが、アフロディーテが零した発言に、とデスマスクは思わず動きを止めた。 「2人は随分打ち解けたようだね」 「えっ!?」 目を見開く。勢いよく己に向いた黒2つに赤2つ、合計4つの瞳にアフロディーテは一瞬身を引いた。怖い。 「なんだ、その顔は」 怪訝そうな――この男、鋭いように見えて意外なところで鈍い――シュラの問いには眉を吊り上げた。 「心外だという顔!」 「こっちの台詞だ」 ケッと舌を出したデスマスクを睨みつけ、は地を這うような声を出した。 「素直に『若い子とお近づきになれて嬉しいです』と云え」 「自分で『若い子』とか云って痛くねぇ?」 「黙れおっさん」 「何ィッ!?」 「デスマスクが・・・」 ぽつり。 ヒートアップしそうになった2人の会話の合間に、シュラが呟いた。 何だ、と3人の目がシュラに向く。 そんな視線を知ってか知らずか、腕を組んで軽く下を向いたシュラが、もう一言。 「デスマスクがおっさんだとすると、同い年の俺もおっさんなわけだな・・・」 痛い一言だった。 シュラの言葉を頭の中で噛み砕き、数秒考えて漸く意味を悟ったは面白いほど慌てた。 「・・・違うよ!デスマスクはおっさんだけどあなたはおっさんじゃないよ!!気分的に」 「気分か」 やや遠い目をして窓のほうを見るシュラは、どこか拗ねているようだった。 確かに5つも年上の成人は、17歳の少女からすればおっさんなのかもしれないが。だが。なんかショックだった。 困ったように自分を見つめるが迷子の子犬のようだな、と思ったところで、ふと気付いた。 「そういえば、俺はまだ名乗ってなかったか」 「一応知ってるけど、あなたの口からは聞いてない」 気にしていない、と軽く手を振って示すとホッとしたように息をついたはシュラの言葉に少し考えるようにしてから云った。 そうか、と頷き、シュラは口を開く。 ここ最近、久しく口にしなかった自分の、名前を。 「山羊座カプリコーンのシュラだ」 シュラが真面目くさって名乗ると、も少し畏まって云った。 「です。よろしく!」 にっこりと笑っては右手を差し出し、シュラに握手を求めた。 シュラは一瞬戸惑ったようにの手を見つめ、の顔とを交互に見たが引っ込められないのだと知ると軽く息を吐いて己の右手も差し出した。 小宇宙を込めれば何もかも切り裂く聖剣。 一度、その恐ろしさを身をもって体験するところだったというのに。 は何の躊躇もなく右手を差し出した。 馬鹿なのかと思った。 けれど違う。 大丈夫だと思ったから、そうしたのだ。 読めない。食えない。 なんだか敵わないな、と少し負けた気分になったが、の手を握ったシュラのどうしてか心は酷く穏やかだった。 「、私も握手」 「わぁい握手握手!」 アフロディーテから差し出された手を握り返し、満面の笑顔を浮かべる。俺に対してとは全然違うじゃねーか、というデスマスクの文句は聞かない。自分の行いを思い返せと云いたくなる。 と、不意に甘い香りがの鼻腔を擽った。 すん、と鼻をならしてみると、どうやらこの香りはアフロディーテからのものであるようだった。 「アフロディーテ、なんかすごい良い匂い」 「ああ、宮で薔薇を育てているから、染み付いているのかな」 自分では全く気付かないけれど、と笑うアフロディーテにはまた首を傾げる。 「育ててるの?」 「そう。ちょっとした薔薇園になっているんだ」 「見たい!」 きょとん、と一度瞬きをした。 思わず問い返す。 「・・・・・・薔薇だよ?」 念押す。 「? うん、私薔薇好きだよ」 不思議そうに首を傾げたに首を傾げたくなったのはアフロディーテのほうだ。 忘れたわけでもあるまい、自分の行動なのだから。 ついさっき、アフロディーテが訪問した時に、彼女は一体何をした? ・・・・・・・・ 薔薇を振り払ったではないか。 それも、あんなに泣きそうに、哀しそうに、―――苦しそうに。 だというのに、どの口が『薔薇が好き』だなどと云うのだろう。今は社交辞令なんて必要ではないはずだ。 軽く微笑みながら、アフロディーテは注意深くを見た。そしてデスマスクも、同じように少し目を眇めてを見ていた。考えることは同じであるらしい。シュラだけは、先ほどの事情を知らないためいかにアフロディーテの薔薇園が素晴らしいか淡々と――だがしかし確実に楽しそうに――に説明していたが。 シュラの話を聞くに、特におかしな様子はない。先ほどの取り乱した様子も、むしろ自分たちの錯覚だったのではないかと思うほどに、普通だった。 けれどあれは錯覚ではない、現実だ。 はアフロディーテに差し出された薔薇を、蒼白になって悲鳴を上げ振り払った。 あれは、現実だ。 しかし、これも現実。 シュラの話に耳を傾けるは楽しそうで、本当に薔薇園に行くことを楽しみにしているように見える。 わからない。 彼女のことを知るには、たった数時間ではあまりに足りなさすぎる。 少しはわかったつもりだった。 でも、わからない。 それはにしても同じなのかもしれないが、何故か、酷く虚しいような気分にさせられた。 笑ってしまう。 十二宮に置いて最強である黄金聖闘士であり、最悪と云われた自分たちが。 高々小娘に頭を悩まされるなどと、お笑い草以外のなんなのだろう。 だが、不思議と気分は悪くない。 だから余計に、虚しかった。 そこまで考え、アフロディーテは頭を振った。 わからないなら、これ以上考えても無駄である。 「・・・・・・じゃあ明日にでも招待しよう。ハーブティーも用意しておくよ」 どうせ時間はある。彼女が、元の次元に戻るまで。 それに、すべてを理解する必要はないのだ。がここにいる間だけ、当たり障りなく接すればそれでいい。 だいたい、わかろうとする必要もなかったのに。 不思議だ。 どうしてか、わかりたいと、思った。 ―――らしくない。 「嬉しい!ありがとう!」 ぱん、と両手を打っては喜び、笑顔を零した。 可愛い、と思う。 彼らも黄金聖闘士と云えど男である。人並みに欲があるわけだが、どうしてだかに対しては女に対する欲というのが湧かなかった。 花のように咲く笑顔も、拗ねて目を吊り上げる表情も、困ったように眉尻を下げたりする顔も全部可愛いと思う。 でも、それだけだ。 云うなれば、妹に向けるような、愛情。 家族愛、とでも云うのだろうか。 なんだか少し違うような気もするが、それ以外にうまい例えが浮かばないのも事実だった。 皮肉なものである。 幼いころに血縁すら断ち切り、家族と云うものを失った自分たちが、今更になって家族愛などというものを抱くとは。 神とはつまらない悪戯をしてくれるものだ、と思った。 薔薇園に思いを馳せて嬉しそうに笑っていたは、不意に姿勢を正して3人を見まわした。思わず3人も背筋を伸ばすと、は軽く頭を下げる。 「改めて、みんなよろしくね。――いつまでいるかは、わかんないけど」 ほんの少し寂しそうに呟いたは、それでもにっこりと笑顔を浮かべた。 3人はちらりとお互いに目配せをすると、小さく肩を竦め合った。にはその意味はわからなかったが、きっと訊いても教えてくれないんだろうな、と感じた。 すると、いきなり頭を掴まれた。そしてそのままガシガシと乱暴にかきまぜられる。デスマスクだった。 「よろしくしてやるから感謝して敬えよ」 「ちょ、痛い馬鹿!こんなことする人は感謝はするけど敬えねぇよ!」 「いい度胸だ」 「ありがと!」 手を放されたときにはすでに手遅れなくらい頭がぐちゃぐちゃになっていて、鳥の巣みたいになっていた。手櫛で戻るか怪しい。 殺気の籠った目でデスマスクを睨みつける。笑顔を返された。ちきしょう、覚えてろ。 ベッと舌を出してやると、今度はふわりと頭に手が乗る。驚いていると、どうやら髪を梳いてくれ始めたようだ。可能な範囲で首を動かすと、輝くプラチナブロンドが目に入る。アフロディーテだ。 「こちらこそよろしく、。何かあったら遠慮なく云っておくれ。私は教皇宮に一番近いから、すぐに駆けつけるよ」 「ありがとう、アフロディーテ。でもあの階段・・・チラッと見たけど、呼びに行くのも難儀よね・・・」 来る途中、廊下からチラッと見えた階段を思い出し、は遠い目をした。陸上部に所属しているので体力には自信があるが、あれは自信を根底から崩してくれるような長さがあった気がする。 みんな毎日あの階段登ってるのかなぁ、と乾いた笑いを浮かべていると、横から助け舟がやってきた。シュラである。 「軽く頭で念じればいい。俺たちの誰かに向けて念じれば、こちらで小宇宙を感知する」 「・・・・・・つくづく、小宇宙って便利・・・」 「ただし、夜に呼ぶときは人を選べよ。デスマスクなんぞ呼んだら大変なことになるからな」 真剣な眼差しで云われ一瞬息を飲んだが、意味を考えては噴き出した。シュラも、真面目ぶった表情を崩してわずかに微笑む。珍しいことに。 「あはは、わかった。じゃあ夜に何かあったらアフロディーテかシュラを呼ぶわ」 「多分、一番関わるのは私たち3人だから、何でも頼ってくれていいからね」 「そうなの?金ぴかな人はまだいっぱいいた気がするけど」 「まぁ、いろいろとな」 ふっと軽く目を伏せたアフロディーテとシュラに、なんだか違和感を覚えた。しかし、出会ったばかりだしは彼らの事情を何も知らない。 気のせいだろう、と自分に云い聞かせた。 それに、何かを知ったとしても、自分はずっとここにいるわけではないのだ。知らなければいいことだってあるかもしれない。 それから少し、先にデスマスクのした説明に重ねて聖域や聖闘士、ここでの生活について話をしたあと、夜も更けてきたのでお開きとなり解散となったのだが、 「聖衣を『金ぴか』というのだけはやめてくれ」 と釘を刺していくのは忘れなかった。 地味に傷付くのだ。 -------------------- ああああ長かった!もっと短くなる予定だったのに!!次回からは、少しずつ話を区切ります・・・そのほうが多分読みやすいし・・・。 というわけで3人との少しの邂逅でした。 細かいところは、話が進むうちに明らかになるのでそっとしておいてください← 次はもっと早く更新出来るように頑張ります・・・! あ、さおりお嬢さんお誕生日おめでとうございます!!← 20100901 |