細雪
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「あ、雪!」 「え?」 隣の幼馴染みが上げた声は嬉しそうだったが、彼女より高い身長を持つ英士は嫌そうな声を出した。そんな英士に不満げな視線を送る。 「嫌なの?」 「面倒なだけ。試合しづらいし」 「……サッカー馬鹿め」 ボソリと呟くと、今更でしょ、と返された。どうやら自分がサッカー馬鹿である自覚はあるらしい。 英士の幼馴染み――は、降りだした雪を見上げて嬉しそうに笑った。彼女は昔から雪が好きなのだ。寒いのは嫌い、でも雪は好き。そう云って英士に馬鹿と云われたのは今より大分昔の話だ。最も、継続的には云われているが。 「雪ダルマ作ろうね」 「寒いよ。風邪引く」 「英士は大丈夫よ」 「……が引いても俺が面倒みるんだから同じでしょ」 「……ちぇー」 駄目だよ、と念を押すこの幼馴染みが本当はそのときになれば嫌々ながらも手伝ってくれることをは知っていた。なんだかんだで英士は優しいし、には甘いのだ。 だからも『はーい』と気のない返事を返す。そのあとの英士のため息も予想の範疇だった。 「あ」 しばらく歩いたところでまたが声を上げた。雪はまだ降り続いている。積もるのは時間の問題だ、英士は早く家に帰りたかった。 立ち止まったを怪訝そうに振り返り、視線で何と問うた。するとはニコッと笑い、云った。 「英士、誕生日おめでとう」 面食らった。まさかここで、今云われるとは。 確かに今日は郭英士にとって十五回目の誕生日だった。早生まれである彼は同級生や親友たち、それにこの幼馴染みと漸く同い年になったのだ。 「ありがとう」 「いえいえ。ホントは一番に云いたかったんだけど、さすがに夜中に行ったら怒られそうだったし」 「だから一番最後?」 「そう。嬉しい?」 「嬉しすぎて涙が出てくるね」 「あっはは、あたしそういう英士大好きだわ」 「…今更でしょ」 「知ってる!」 そう云うとは勢いよく英士の腕に抱きついた。英士もなんとなくわかっていたのか、別段驚くこともなくそんなを受け止める。 雪はまだ止まない。 再び歩き出した二人の距離はゼロ。繋がれた手と組まれた腕は離れることをまるで知らないようで、はこっそりと微笑んだ。 「英士」 「何?」 「大好き」 「……だから、今更でしょ」 「うん」 この人が生まれてきてくれて、たまたまでも自分の家の近くに生まれて本当によかった。 雪が降って、また二人の距離は縮まった。 --------------------- 1月25日は英士の誕生日! 数年前のリサイクル… |