人間らしくて、人間くさくて、そして。






気付かない人





 人知れず練習する彼は、酷く痛ましかった。
 親友が見ていたのなら必ず止めたであろう練習を、彼は止める人間がいないのをいいことに平気でやってのけた。
 部活が終わって、一度寮に帰って。それから就寝時間までは普通通り、親友や出来の悪い後輩、逆に出来の良い後輩、それに他の友人たちと過ごす。

 しかし、同室の親友が眠りに落ちたことを確認すると彼はすぐさま行動を起こす。
 寮を抜け出し、誰もいない夜の学校へ。
 睡眠時間を削ることは昼間の授業に差し支えることは、彼は重々承知の上で練習しているのだ。
 
 授業よりも。

 サッカーが大事。

 しかし、残念ながら、この類まれに見るサッカー馬鹿振りに気付いている者は少ない。
 何故なら彼がそうであるようにしているからだ。
 必死になるところを見せず、さも自分が何の苦労もなくすべてをそつなくこなす人だと周囲にそう思わせている。
 傷付いた部分はすべてひた隠し。

 格好良い、と誰かが云った。
 馬鹿を云え。
 何も知らないくせに、何もしてないくせに、軽々しくそんな言葉を口にするな。
 彼が今まで幾度この言葉を口にしようとして、留めてきたことか。誰も知らない。

 出来るやつはいいよな、と誰かが云った。
 ふざけるな。
 努力もしてないやつが、しようとしていないやつが云えた台詞か。
 これも彼が云わずにきた、けれど何より彼が云いたいことだった。

 それでも彼は誰にも頼らない。
 頼り方を知らないのかもしれない。
 あまりにも、ひとりでいすぎた時間が長かったから。
 たかが14年、されど14年。3ヵ月後にはもうこの世に生を受けて15年だ。大人からすればまだまだかもしれないが、彼は15年しか生きていない。まだも何もあったものではない。
 15年が、彼のすべて。

 人に頼るには、彼のプライドは高くなりすぎた。

 人前では偉そうに振舞う姿も、
 雨の中泥だらけのグラウンドでスライディングする姿も、
 たまの休暇も返上でボールを追う姿も。

 そのすべてを合わせて漸く『三上亮』になることを、彼はまだ気付いていないのだ。










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以前の日記リサイクル。あれっ間違っても夢じゃないよね!?(驚愕)
あの、とりあえず秋元的三上考察、みたいな・・・(何)