ただいまーッと元気いっぱいの藤代くんの声が響く。ただ、あえて云うならここは『ただいま』ではなく『お邪魔します』だろう。何せここは私の家なのだ。
苦笑しながら玄関まで行けば、案の定いつものメンバーと間宮くんがいた。どうしたのかと思えば、そういえば間宮くんも選抜の候補に上がっていたことを思い出す。そして、笠井くんは選ばれなかったことも。(ただ、笠井くんはあまり気にしていないようなので何も云わない)

「お帰りなさい」

「ただいまっすー!受かりましたよー!!」

いえい、と藤代くんは満面の笑みで両手でピースを作った。つられて私もピースを作る。

「おめでとう。二人も?」

「…あー……」

云い淀む。首を傾げながらもう一度みんなのほうに顔を向ければ、彼がいないことに気付いた。
ハッとして渋沢くんを見る。すると、困ったように眉を下げ、頷いた。

「……そっか」

「いけると、…思ったんだがな」

「………」

多分、本心だ。渋沢くんは、こういうときに嘘を吐けるほど器用じゃないし、第一彼の実力を認めて信頼しているのは、何を隠そう渋沢くんなのだから。
そっか、としか云えない。
私は、何もわからないから。

「三上先輩」

若干の沈黙。
それから、ふいに口を開いたのは笠井くんだった。

「多分、公園にいると思います」

「………」

「俺たちじゃ、だめなんです」

あの人、プライド高いから。
笠井くんは苦笑して云った。

笠井くんの云いたいことはなんとなくわかる。きっと、サッカーをやっている人が慰めても、逆に彼のプライドを傷付けることになるのだ。例えそれが、選抜の候補にすら――と私が云うのもおかしな話かもしれない――ならなかった後輩であっても。
けれど、私なら出来る。私になら、彼のもとへ行って、支えてあげられる。私にはサッカーがわからない。だからこそ出来ることがある。

「多分、さんのこと、待ってると思うんです」

「―――…」

「行ってもらえませんか?」

彼は間違えなく幸福者だ。こうして心から心配してくれる人がいる。
意地っ張りで強がりで素直じゃなくて俺様で、山のように高いプライドのせいで嫌な人、と思われることの少なくない彼は、意外と人望があるのだ。
だってあんな不安定な人、放っておけるはずがない。

―――ねぇ、あなた、本当に馬鹿ね。

「……どうしようもない人」

「三上先輩ですから」

「酷い後輩だなぁ」

「三上先輩の後輩ですから」

どういう意味、と思わず笑ってしまった。笠井くんときたら、本当にいい性格をしている。

「でも、どっちかっていうと、笠井くんは渋沢くん似だよね」

「げ。やめてくださいよ」

「どういう意味だ」

「腹黒は心外だってよ」

はますます三上に似てきたな」

「彼女ですから」

「はいはい」

ねぇ、はやく気付いてね。

「じゃ、」

あなたは一人じゃないよ。


「行ってくるね」


友達が、
後輩が、

私が、傍にいるから。






ひとりぼっちになんてさせない





(私を置いて独りぼっちになんて)

(そんなの許さないんだから)











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選抜合宿後。間宮が一言もしゃべってない笑


20100307