私が彼に出逢ったのは必然であり、偶然でもあった。 奇しくもあの腹黒女帝…おっと間違えた、あの清楚可憐な西園寺玲サマに都選抜のマネージャーに仕立て上げられた私(親戚なんていいことないね)が韓国遠征に同行していたことと、彼がその実力からソウル選抜のメンバーだったことは、ある意味必然的で。 しかし、そんな立場の私たちが親交食事会で出逢ったのは、偶然的でもあるのだ。 「ねぇカックン」 「やめてくれるその呼び方」 「ガックンぽくて嫌?」 「そういう問題じゃないんだけど」 食事会の最中、たまたま隣の席になったカックンこと英士の袖をちょいちょいと引っ張った。面倒臭そうな視線を向けられ、あまつさっきのやりとりに深い溜め息を疲れたのは気のせいということにしておこう。 気を取り直して、あのさぁ、と続けた。 「ソウルの10番くんさ、英士とそっくりだよね」 試合が始まり、ピッチに立っている彼らを見たときから思っていた。纏う雰囲気は全く違うけれど、顔の作りとかがそっくりだった。 あれ、と思ったのだ。 そういえば、郭、という名字は日本じゃなかなか聞かない。というより、英士に会って初めて知った。そのとき私は勝手に中国っぽいなぁと思っていたのだけど、韓国っぽくもあるなぁ、と今更思った。 もそもそと食事を再開しつつ、素直に疑問を口にすれば、ああ、と英士は呟いた。 「イトコなんだよ、僕たち」 「潤慶」 「や、ヨンサ」 それにマネージャーさん、ここいい? びっくりした。話題の種がやってきた。 もしかして聞こえてたんだろうか、いや、さっきの疑問に答えたのが10番くんだったのだから、確実に聞こえていた。なんだか申し訳ないと思いつつ、どうぞ、と向かいの席に10番くんを勧めた。 「不本意ながらね」 「あ、ヨンサ酷い。一緒にお風呂に入る仲なのに!」 「……何年前の話してるの」 「なんと!一緒にお風呂に入る仲と!」 「そうだよー僕とヨンサは仲良しだからね!」 「馬鹿じゃないの?」 バッサリ切り捨てられた。クールビューティーはどこまでもクールビューティーだった。いつかそのはなをあかしてやろうと思う。 なんだよ郭ぅ、つれねーなーぁ、と箸の裏で腕をつついたら、鬱陶しい、と一蹴された。 「ところでさぁ」 ぎゃいぎゃいと(やっているのは私だけだが)騒いでいると、ニコーッと笑顔の10番くん、もとい、李くんが笑って云った。 「ヨンサとマネージャーさん、仲良さそうだけど、付き合ってたりするの?」 私は箸を落とした。 英士も箸を落とした。 数秒固まった後、先に覚醒したのは意外にも私のほうだった。 「有り得ないよ、それ」 「違うの?」 「……こんなのを彼女にするくらいなら、一生ひとりでいいんだけど」 「へぇー」 「同意したいところだけど、英士、あとで覚えてろ」 なんたる爆弾発言か。 確かに仲が悪いようにみえて悪くはない私たちだけれど、付き合ってるの、と訊かれたのは初めてだ。英士が彼氏?いやだそんなのゾッとしねぇ! 因みに英士の覚醒が遅れたのは、あまりにショックが大きすぎたかららしい。どんだけ失礼なんだこの男。私だってお断りだ。 「僕さぁハーフタイムのときに二人が話してるのみて、あれーって思ったんだぁ」 「思うだけに留めときなよ」 「そうだよ、心理攻撃なら試合前じゃなきゃ意味ないよ」 「お前はどっちの味方なの」 いやぁ、と笑うと気持ち悪いと云われた。理不尽だ。 「それでね、僕なりに考えたんだけど――あ、試合中は勿論試合に集中してたよ?――、ヨンサの彼女になる子ってどんな子なんだろうなぁって」 マイペースだ。李くんはマイペースだ。 いまいちペースについていけずぽかんとしていると、英士が呆れたようにいつもこうだから、と云った。 「で、試合終わってからそっちに挨拶行ったらさ、寒そうにしながら一生懸命仕事してる君を見てね、なんだか英士にはもったいないなって思ってね」 「もったいないとか以前に付き合ってないんだけど」 「まぁまぁ。それで、更衣室で着替えてる間とか、ここに来るまでの間とか、ともかく英士にはもったいないって考えててね」 「…………」 すげぇ。 生まれてこの方十四年、こうも人に絶賛されたことはなかった。 しかも、私に英士がもったいない、ではなく、英士に私がもったいない、と彼は云っている。それってすごいことだと思うのだけど。 呆然と話を聞く。私が驚きで固まっている間も、李くんは私を褒めてくれている。これはもう照れている場合ではない。むしろ申し訳ない。罪悪感が芽生えてきた。 すると突然、だからね、と李くんは身を乗り出した。私は若干身を引いた。 「結論から云うと、僕は君に恋をしたんだよね!」 どう思う?と李くんは首を傾げて微笑んだ。 |
結論、君が好き。
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(……いいと思う) (え。ほんと!?) (………勝手にしてよ…) -------------------- 潤慶大好き! |